骨盤臓器脱について

子宮や膀胱が下がる病気を御存知ですか?

それは・・・「骨盤臓器脱」という病気です。

骨盤臓器脱

本来、女性の骨盤は骨盤底筋と呼ばれる筋肉によって常に支えられています。
しかし出産・閉経・加齢により、骨盤内臓器を支持している骨盤底筋群が徐々に弛緩し、支えを失った膀胱や子宮、直腸が腟から突出することがあります。これらを総称して「骨盤臓器脱(こつばんぞうきだつ)」と呼ばれております。

 

膀胱が腟より突出した場合を「膀胱瘤」、子宮が腟より突出した場合を「子宮脱」、直腸が腟より突出した場合を「直腸瘤」とよびます。またお腹に力が入ったり咳やくしゃみをするとおしっこがもれるという「腹圧性尿失禁」もこの仲間に入ります。

自覚症状は、初期には腟からピンポン玉のようなものが出ると訴えられる方が多いのですが、それが徐々に大きくなってきて、出血や排尿困難、排便困難といった症状を伴うようになってきます。なかにはおしっこが全く出なくなって腎不全になって受診される方もおられます。

こうした骨盤臓器脱に悩まれる患者様は大変多く、アメリカ人女性では10人に1人が一生のうちに1回は骨盤臓器脱で手術を受けるといわれております。また、スウェーデンにおける骨盤臓器脱調査によると、20歳から59歳までの女性のうち、出産経験者の44%が骨盤臓器脱の症状を持っていると報告されています*。

*Am J Obstet Gynecol 180, 1990

 

主な骨盤臓器脱の症状

1.膀胱瘤

膀胱瘤

膀胱瘤は最も頻度が高い骨盤臓器脱頻度です。症状としては下腹部違和感、臓器下垂感、頻尿、残尿感、排尿困難など多岐にわたります。また膀胱瘤に悩んでいらっしゃる方は腹圧性尿失禁を合併していることもあります。

2.子宮脱

子宮脱

膀胱瘤に続いて多い骨盤臓器脱です。症状は下腹部違和感、臓器下垂感に加え、腟粘膜と下着との摩擦による出血、痒み、痛みなどが認められます。

過去に子宮摘除術された場合には摘除残りが腟口より突出することがあり、これは膣断端脱と呼ばれます。(子宮脱で子宮摘出を勧められる方から御相談を受けますが、子宮を摘出しても骨盤臓器脱は良くなりません!)

3.直腸瘤

直腸瘤

直腸が腟口より突出した状態です。罹患頻度は膀胱瘤や子宮脱に比べ少ないと思われます。症状としては下腹部違和感、臓器下垂感、便秘、排便困難、便失禁などがあげられます。

骨盤臓器脱に対する従来の治療方法について

これまで行われてきた治療は「子宮を摘出し、腟壁を縫い縮める手術」が主流となっておりました。しかし子宮を摘出した場合、本来の組織を損傷するために膀胱や直腸がより下がるようになるとともに、尿失禁(おしっこが漏れる)の出現頻度が増加するという欠点があります。また弱くなった組織を縫い縮めたり、切除したりする方法は簡単ではありますが、約3~4割の方が再発するという欠点がありました。しかしその方法以外に有効な方法がありませんでした。

そこで子宮を摘除することなく、より再発率を抑える目的で登場した方法がTension-free vaginal meshTVM)手術です。このTVM手術は、2000年にフランスから報告され、子宮を摘出することなく、再発率は数%という優れた方法として全世界で広く普及し、諸外国では商品として発売されておりました。しかし日本では発売されていなかったため、2005年に竹山政美医師が国内で初めてTVM手術を開始し、現在までに全国で数万件の手術が行われるまでに至りました。TVM手術は弱った腟壁の代わりにポリプロピレン製のメッシュを用いて弱った支持組織を置き換えます。この方法により子宮を摘除せずに再発を抑えるのみならず、過去に子宮を摘出された方でも治療ができるようになりました。

さらに近年、腹腔鏡下仙骨腟固定術(Laparoscopic Sacral Colpopexy, LSC)も開始され、2014年4月からは健康保険の適応となりました。

  

 

腹腔鏡下仙骨腟固定術について

LSC手術

腹腔鏡下仙骨腟固定術(Laparoscopic Sacral Colpopexy, LSC)は腹腔鏡下に骨盤臓器脱を治療する方法です。
欧米では骨盤臓器脱の治療のゴールドスタンダードとして以前から行われてきた術式ですが国内では先進医療として限られた施設でしか手術を受けることができませんでした。
本年4月からは健康保険の適応となり、届け出をした施設では保険診療としてこの手術が行うことができるようになりました。

 

一般的な手術スケジュール

手術前日 午前中に入院していただき、手術についての説明があります
手術当日
手術前
手術前に必要な処置(点滴や血栓予防のストッキング着用など)をして
手術室へ入っていただきます。
手術 手術は下がっている臓器によって異なりますが、約1~1.5時間です。
麻酔は全身麻酔で行います。
手術後 手術後はお部屋で安静にしていただきます。
おしっこを出すための管が入っておりますので、御自分で歩く必要はありません。
手術翌日 特に問題なければ、食事・歩行をしていただきます。
血液検査 手術創部の確認があります。
術後3日 おしっこの管を抜いて、問題なく排尿できるかを超音波で確認します。
術後6日 再度血液検査、排尿の検査(超音波)を行って退院に問題がないかを確認します。
また退院後の注意点などを御説明いたします。
術後7日 退院となります

 

腟式メッシュ手術(TVM手術)と腹腔鏡下腟仙骨固定術(LSC手術)の長所と短所

腟式メッシュ手術(TVM手術)

高齢で(およそ70歳以上)、性交渉があまりない方

長所 手術時間が短い(1時間~1時間30分)
再発が少ない
短所 術後の性交痛が出現することがある
約3ケ月は比較的安静が必要

腹腔鏡下腟仙骨固定術(LSC手術)

比較的若年で(およそ60歳以下)、肥満がなく、性交渉のある方

長所 再発が少ない 術後の痛みが少ない
術後の性交痛の出現がほとんどない
術後1週間で日常生活に戻れるので社会復帰が早い
短所 手術時間が長い(2.5時~4時間)
肥満の方には手術が難しい

ひまわり

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